ゴシック体(欧米圏風に言うとsans-serif体)って単に同じ幅で機械的にシンプルに線を引いたような書体 のような感覚があるが、意外とそうでもない。

"M+1の「あ」(左)とIPAゴシックの「あ」(右)、IPAゴシックの「あ」は一画目と二画目がしなっている。"
M+1の「あ」(左)とIPAゴシックの「あ」(右)

例えば、IPAゴシックの「あ」を見てみよう。 「あ」の一画目(横線)が右に行くにつれ上に反っているのは 二画目(縦線)の起点に繋げる、ペン(筆)の動きに対応している。 「あ」の二画目が左にしなっているのは、 「あ」の字源が「安」から来ていて造りの「く」となっているところに 由来するのであろう。

"「安」の一画目と「あ」の一画目・四画目の対応関係図"
「あ」の一画目は「安」の一画目と四画目に対応する

手で書いていたころの字型がしっかりと字型に残っている。

一方M+1フォントは一画目と二画目を完全な直線にしてしまっている。 また、最後の丸く形を作る空白部も均等になるようデザインしている。

M+1フォントの「あ」のパス表示。一画目と二画目の部分はベジェ曲線制御点がない(直線だ)ことがわかる
M+1フォントの「あ」の一画目と二画目の部分はベジェ曲線制御点がない(直線だ)
"M+1フォントの「あ」の最終画で作る丸内の空白部のバランスが、ほぼ均等になるようになっている。"
M+1フォントの「あ」の最終画の部分のバランス

M+1フォントはモダンゴシック。 このデザインは、おそらく意識的に行なっているものであって、 一方で、M+2の方はくねくね感を残している。

フォントの字形は人間の手で描くものではないため、もはや過去・歴史的しがらみや 筆順による影響などを考えずに、フォントはデザインできる。 そのような思い切ったデザインもM+1フォントの魅力だと思っている。 有償のモダンゴシックフォントである、モトヤLシーダとかもそのような感じではあるが。

参考文献