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4. ポニーテール(振り子)の振れ方の考察

前回まででポニーテール共振器の挙動を定式化することができた。 その成果である(3.7)式を再掲する。 なお、 ωg/l 近傍では時間に比例して振幅が増幅され、やがてθが微小という 前提条件から外れてしまう。

θ=2Xω2g-lω2sing/l+ω2tsing/l-ω2t (3.7)

(3.7)式で表される振り子共鳴器の振動の振幅である

Θ=2Xω2g-lω2 (4.1)

に注目したい。この支点の振動振幅Xは単なる比例定数としてしか 作用しないのでここには特に注目する必要はない。 (いっぱい揺らせば、それだけ揺れるだけということ。)

(4.1)式のωに注目して傾向をみると、

  • ω=0のとき、Θ=0
  • 0ωg/l のとき、Θは単調増加
  • ω=g/l のとき、Θは正の無限方向に発散(もっとも(3.7)式自体が発散するので(4.1)式は適用できないが、前回検討したように振幅自体は発散しているので、これで良しとしよう。)
  • ωg/l のとき、Θは負の無限から、単調増加して、
  • ω のとき、Θ -2X/l に漸近する

のであるが、実際は増減がかなり激しいグラフとなる。 参考までに、l=0.15[m]のときの |Θ/X| の関係を示す。なお縦軸は対数スケールであることに注意されたい。

さて、実際に「 -ポニーテールはなぜ揺れる?- 振り子のふれ方の研究 」での実験1の結果と比較していく。 以下「実験1の結果」といったように記載されているのは、 すべてその文献に記載されている値である。

実験1の方法に記述されている実験パラメータは以下の通り。

糸の長さを変え(15㎝、30㎝、60㎝)、歩く速さを変えて(ゆっくり、普通、早足で)、6m歩いた時の振り子の往復回数をそれぞれ5回ずつ計る。おもりは50円玉1枚(=4g)。

糸の長さはlに対応するのは明らかだが、歩く速度は強制振動に対応するであろう。 考察に書かれているように足の着地が振動の端っこになるので、 10秒で10歩歩いた時は2秒周期の振動になる。

歩くテンポ(速度)とωの関係は以下のようになる。

テンポ歩行間隔周期ω
ゆっくり歩いた 20歩で約20秒 2秒 π
普通に歩いた 20歩で約10秒 1秒 2π
早足で歩いた 20歩で約5秒 0.5秒 4π

(4.1)式に実験1のパラメータを入れて計算をする。 表中の値はΘ/Xであり、 単位は[rad/m]である。

振り子の長さl0.15m0.30m0.60m
ゆっくり歩いた(20歩で約20秒)2.372.895.09
普通に歩いた(20歩で約10秒)20.4-38.6-5.67
早足で歩いた(20歩で約5秒)-22.7-8.41-3.72

支点の振動振幅幅Xで割っているので、数値の大小だけに注目してほしい。 「ゆっくり歩いた」では60cmが最も揺れ、 「普通に歩いた」や「早足で歩いた」では60cmは他と比べ揺れは小さい。

この表中の値はΘ/Xと絶対値を敢えて外して書いた。 こうすることで、正負の間に相当するところで発散する (もっともポニーテールが揺れる) パラメータが存在することが容易にわかるためだ。 例えば長さ l=0.15 m でいえば、20歩で7.8秒(周期0.78秒)程度のところが 発散するパラメータであり「普通に歩いた」と「早足で歩いた」の間である。 また、普通に歩いた(20歩で約10秒)(周期1秒)でいえば、l=0.25 m のところが発散するパラメータである。

この結果は、実験1の結果と 「ゆっくり歩いた」と「普通に歩いた」では傾向とは一致した。 しかし、「早足で歩いた」では実験では30cmが最も揺れるのに、 この式での計算では15cmが最も揺れた。 また、歩くスピードで比較しても実験結果と合わないが、 こちらにかんしては振動振幅幅Xが、 歩くスピードで変わってしまう(速く歩くと揺れやすい)からではないか。

5. 考察と感想

ポニーテールをモデル化したポニーテール共振器の挙動について定式化をした。 その結果、ポニーテールの長さと体の動き(横振れ周期)の関係が重要な 影響があることがわかった。 このモデルでは、ポニーテールを振り子とみなしたときの固有周期と ほぼ同じ周期で横揺れするような速度で歩いたときにポニーテールの振れ幅は大きくなる。

一方で実験結果と一致しない点、特に体の動きのモデル化は不十分である ことがわかった。 すなわち、早く歩いたときどのように体は揺れるかなどである。 今回は理想的に一定の振幅の波形としたが、この場合に歩行速度で 比べた振れ幅の比較ができなかった。 今後、歩くときの振動についてよりよいモデル化が必要と思われる。

A. 参考文献

  1. 中村優里:「-ポニーテールはなぜ揺れる?- 振り子のふれ方の研究」シゼコン 自然科学観察コンクール 第49回、2008年。
  2. 三宅敏恒:『入門微分積分』培風館、1992年