今は昔、1999年ごろに「ビットバレー」という渋谷を中心としたインターネット企業(起業)のムーブメントがあった。これを仕掛けたのはネットエイジという会社だった(昨年からネットエイジ社は再始動している)。ネットエイジの育てた企業のうち一部(例えばMixiやグリー)は後にむちゃくちゃ発展する。しかし、「ビットバレー」という名前は、過去のものどころか今覚えている人は少ないのではないだろうか。

「ビットバレー」というのは渋谷の直訳「bitter valley」とビット(bit)を掛けたものである。ここで私はベンチャーとかそういうのではなく、地名をいろいろ英訳するとなにか面白いことが浮かぶんじゃないかと思った。こうして間違った方向に発想が行ってしまったのがこのチラ裏ネタである。

なるべく徹底的にやりたかったので以下の条件を課した:

  • 日本語の中にはそのままで通じるものがあるが、あえてそれもむりやり英訳する。
  • 直訳が困難な場合や直訳がつまらない場合、その名称の起源(説でも可)を参照して適切な訳をあたてる。
  • 本来の意味と直訳とで意味が変わるものはケースバイケースで判断をする。直訳が簡単なものはなるべく直訳を採用する。
    • 例えば、「大手町」は江戸城の「大手門」に由来する。大手門とは日本の城における正門の一般的名称である。だから大手門はMain Gateの意味で、大手町はMain Gate Townといった訳のほうが適切ではあるが、直訳のGreat Hand Townを採用する。
  • 「〜前」という言い回しは英訳する際に「前」に相当する部分は省く(仮にドイツ語に訳すのであるならば「〜前」とかも訳すべきだけれども)
  • 「〜○丁目」という住所表記は欧米には存在しない。「○ 〜」という書き方に統一する。(青山一丁目→1 Blue Mountain)

そして門前仲町はGate Front Midtownだ!とかしょうもない英訳を全駅についてじっくりやって出来た図が以下だ(Wikimedia CommonsのPublic DomainなTokyoSubway.svgをベースにして作った)。 なおきちんと確認をしていないので壮大な誤訳があるかもしれない。

Tokyo Subway Map in English word-by-word translation

これをやって気づいたことは、地名は難しい。地名の意味まできちんと知っていることってほとんどないのだな、ということがよくわかった。

なお参考までに以下に特に英訳に困難を極めたもののメモを記しておく:

赤坂見附
見附とは城門のこと。→Red Slope City Gate
仲御徒町
御徒とは下級の武士のこと→mid-warrior town
茗荷谷
茗荷はMiogaになってしまう。ラフに訳すとGingerなのでなんかちがう。学名の一部からZingiber。
本郷
由来から考えると「本」は拠点(hub)、郷は里だが経済・流通的センターを兼ねていたので英国英語からとってSquare。
淡路町
兵庫淡路島の意味で英語版wikipediaで「road to Awa」にあやかって「Road to Pale」
小川町
小川の訳にbrookを当てることで、隣の神保町の本の街とかけてみました。
阿佐ヶ谷
語源の「浅い谷」から
八丁堀
八町堀が由来。八町はおよそ800m
小伝馬町
伝馬は馬による物流サービス。
葛西
葛(くず)は英語でもKudzu。しょうが無いので学名の P.lobata から。
代々木
「代々伝わるの木」という語源を採用した。
乃木坂
乃木は乃木大将に由来する。しかも、乃は「すなわち(i.e.)」と「あなたの(your)」の意味。しょうがなく「あなたの木」と解した。
千駄木
千駄は馬1000頭分という意味の荷物量を意味する。
辰巳
干支を使った方角表示であり、南東に対応する。
地下鉄成増
もう適当に、Metro Success Increase
和光市
町制施行時に、町名に関してもめた為、「大いなる和」で一つになると言う意味から「大和町」と名付けたところから「和」ときたので、敢えてConsensusと訳した。
日比谷
日比とは海苔を育てるヒビ。ということでLaver farmを当てる。
有楽町
有楽は人名「有楽斎」に由来すると言われているが、その意味は不明なのでどうにもなりませんでした。有が地名に適していないのでそれは訳さずCheerful Townと強引に持って行きました。
麻布十番
この十番は住所地番の「番」ではないので、No.10 と訳した。
白金
本当は銀のことなのだが、プラチナ通りなどプラチナの語を当てている例が多い為プラチナとした。
雑司が谷
雑司は雑用係、つまり総務の役職名。
五反田
五反は0.4958haなのでおおよそハーフヘクタール
志村
篠が生い茂っていた場所としての「しのむら」からdwarf bamboo villeage。
新御徒町
御徒は騎乗を許されない武士。ということは、歩兵だねということでFoot Soldier。
勝どき
勝鬨橋の勝鬨が由来。勝ち鬨を Cheer of Triumph と訳した。
汐留
英語版wikipediaには Keeping out the tide とあったが、長すぎるので tide stops とした。
新大久保
大久保は大きな窪地という意味らしいので。
岩本町
由来は不明。だから「本」はどう訳せばよいかわからない。
恵比寿
YEBISUビールが由来。さらにビール名の由来は神様の恵比寿。恵比寿は蛭子ともいうのでleech childとした。
中野富士見町
富士見町は Mt. Fuji views town で、問題の富士は竹取物語から「不死山(Mt. Immortal)」由来説を採用(武士に富む山説だと英訳が難しい)
稲荷町
稲荷は穀物の神様。「稲が成る(growing-rice)」が由来という説がある。
志茂
「下」が書き換わったものらしいがどうにもならないので、Vision Bushと訳す。
瑞江
瑞はめでたいという意味らしい。(例えば、瑞穂→めでたい稲穂、みたいな)ということでLuckey River。